↑陸上局から110km離れた先端ステーションにビデオカメラが設置されている
 日本の深海研究は世界のトップレベルにあります。海洋科学技術センターの調査船「かいれい」に搭載された無人探査機「かいこう」は世界で一番深い海底まで潜ることができます。その活躍には目覚ましいものがありますが、日本独自の観測・研究システムに海底地震総合観測システムの先端観測ステーションに取り付けられたビデオカメラがあります。これにより、定点での深海の常時観察が可能になりました。特に、室戸岬の沖合100kmの水深3572mに設置されたものは、現在までに設置されたものの中で最も深い位置にあります。高知大学海洋生物教育研究センターの岩崎望助教授らは、1997年のシステム設置以来、恒常的な観察とビデオ記録を続けてきました。
無人探査機かいこうを降ろす↑
室戸岬沖の南海トラフは、日本を取り巻く4つのプレートのうち、フィリピン海プレートがユーラシアプレートに潜りこんでいる深い溝状の区域です。遠くない将来に大きな海底地震発生が予測されるところから海底地震総合観測システムが設置されました。

ビデオ記録の累積は4年間で800時間以上。この作品は、膨大なビデオ記録の徹底的なチェックの中で明らかとなった、新しい知見を選りだして構成しています。生物の種間関係のような生態学的・行動学的な事象や長時間にわたる脱皮といった生理現象、あるいは地殻の変動を示唆するような生物の生死の記録は、従来の自由潜航型の機器のみでは、なしえなかったユニークな成果です。

南海トラフの深海には太陽エネルギー起源の有機物、マリンスノーや、その堆積物を餌とするものと、硫化水素やメタンなど深海底から発する化学物質を利用してエネルギーを得ている生物が共存しています。4年間の観察から、これらの生物の世界は、生きているもの同士が食う食われるということが殆どなく、いわば平和な世界だと考察されました。
2001年4月に観察チームは、調査船「かいれい」に乗船、無人探査機「かいこう」により、観察してきた深海生物・土壌のサンプルを採取しました。採取した生物サンプルの分析からも、深海の底生生物同士の食物連鎖は、食う食われるという関係があまり見られないことが確認されました。

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最終更新2002.03.07.
長期観察してきたシンカイコシオリエビを採取する→