最終段階にて


カラー35mm 28分 
1992年ソン・シネマ社(カザフスタン共和国アルマトィ)
製作         ラウレンティー・ソン

脚本・撮影・監督 ヴァシリー・パルフョーノフ



あらすじ: ニブフ それは、社会学者や政治学者によって西暦2000年にはその歴史を閉じる
であろうと予測されている、ソ連の民族の一つである。悲しいことに、我々はこの悲劇の目撃
者になった。悲劇の主原因は、ニブフの伝統的な生活様式の強制的な剥奪であった。
旧ソ連の野蛮な民族政策は、このエスニック・グループの運命を、「予測」のように完成させる
のであろうか


スーパータイトル
エー、エー、エー! 私たちニブフは伝説ウィフの人間だ。私たちは善意の人だ。
行くところ全てに善意を運ぶ。お客には、実の兄弟の様に接し、敵を持とうとは決して望まない!
この土地には沢山の伝説が生きている。これはニブフの故郷、サハリン島の話だ。大昔、
伝説ウィフの大地が生まれたとき、それは大きな魚の形をしていた。ある時、魚は飛び跳ね
背中を東に向けた。その背中をオホーツク海が洗っている。魚の腹は西を向いた。タタール
海峡が、その腹を洗っている。 ある時、全ての生物が滅びて、アルッキ・ヴォヴァルの山々の
人だけが生き延びた。それはニブフにとって辛い時だった。獣も魚も、全てが消えたのだから。
そこで、創造主タイフナドは地上に降り、むちを振るって奥地に分けいった。タイフナドの足跡は
トゥィム川となった。そしてむちの跡は、その支流になった。するとカラフトマスやサケが殺到して
きた。タイフナドは、ニブフにこう告げられた。全てのニブフたちよ。必要なだけ自分とその犬たち
に魚を捕るがよい。 永いことニブフは、この約束を守ってきた。魚は彼らに食物と衣服を与えて
くれた。ニブフは、首尾良い狩を続けてきた。 熊はニブフにとって全ての始原だ。彼らは、熊を
自分たちの傍らに置いて育てた。熊は、平穏と幸福の象徴だった。 ニブフは、狩にあたって
欲張らなかった。家を建てるのにも必要以上に木を切らなかった。大地を鋭いもので傷つけたり
行ないや言葉で汚すこともしなかった。この世に最初のニブフが現れてからずっと、母なる大地
への尊敬は守られてきた。 祖先の決まりに従い、ニブフは熊の魂を山と森の神、プィル・ウィズ
ングに送り返した。これがニブフの最高の儀礼、熊送りだ。誰もこの儀式をおろそかに出来な
かった。でなければプィル・ウィズングは怒って、人々に飢えと病を送ってくるだろう... だが、
ニブフの不幸が外からやって来た。「お兄さんの心遣い」という悲劇が...

ニブフたちは集められ、生業の手段が欠ける労働者集落に、強制移住させられたのだ。ニブフの
人々は伝統的な生活と生業を失った。 やがて、村々のニブフは団結し立ち上がった。だが、
弾圧され、結果はさらに悪くなった。 リーダ・ムフチクさんは鉄道労働者だった。ごく最近、
ようやく故郷の村に戻ってきた。

    私たちは、海岸で漁をしていました。冬は氷下漁で、夏は定置網漁です。自分たちや
   犬のため日干し魚を作っていました。皆が自分の13頭引きの犬ぞりを持ってました。
   私はチル・ウンヴドゥィに住んでいたけれど、両親も13頭引きの犬ぞりを持っていました。

チャイヴォは大きな村だったの?
ええ大きかった。ヌイヴォよりも... 集団農場では日干し魚を作っていました。あなたは、
ニブフ語をしゃべりますか? しゃべれるわ。本当言うと禁じられていたの。政府当局は
ニブフ語の初等読本も取りあげたの。資本主義を警戒しての処置だったんですって... 皆が
逮捕され、全てが空っぽにされたわ。 あの夜の捜査で、どこも家中がメチャメチャに...

眼の見えないおじいさんまでが逮捕されたのよ。当局は、ギリヤークを全員海に追い込んで
溺れ死にさせる気じゃないかとうわさしたわ... 何でギリヤークを生かしとくんだってわけよね...

むかし、ここに大きな移住地が作られました。ニブフは、皆がそこに集められたの。チルヴン、
アヴディナル、それにナプリンカ、ポドグン−沢山の村の住民が集められました。ニブフを
かき集めて集団農場を作ったの。

そこで何が起こったのか−ですか? 皆が絶望して、酒を飲み始めたのです。そして全てが
メチャメチャになりました。さて今度は、酔っぱらいだと罰せられたわ。あっちでも、こっちでも。

ろくでなしだって... 昔、小さな村では皆が競って働いたけど、結局、集団農場にはロシア人
しか残らなかった。「ニブフ民族集団農場」なんて呼ばれるけど、何がニブフさ? ロシア人しか
いないのに...

ニブフは一軒に3−4家族も詰め込まれ、ロシア人夫婦には3−4室の住宅ってわけ...

マリアさん。家が傾いてきましたね... ああ、雪がとけだしたからね。これから一体どうなることやら...

善い人間は皆、死んでしまったし、若者は無気力になってしまったし...

マリアさん。みんな何で死んだのですか?

ウォッカのせいよ。酔払って自分を撃って、自殺したのよ。ほとんどの死因が自殺なのよ。何しろ、
自然死がめったに無いんだから。老人はほとんどもう残ってはいないわ... アナトリー・マカロフは、
まだ達者だけどあれは例外。もう他に老人はいないね。

マリア・バイグンさんは、ニブフの年寄りの最後の生き残りとなったのだ。 魚をとるとか、アザラシを
とるとかは、これは民族の伝統的な権利のはずです。ロシア人はというと、一人がやってきて
今度は親戚を呼び寄せます。集団農場構成員の91%はロシア人です。ニブフは、本当にまれ
なんです。ロシア人は僻地手当を目当てに来るんです。金を稼いで消えて行く。住宅がもらえたら
残る。彼らは、あっちこっち都合いい処へ行って、稼いだり、住宅もらったりしてるわけ...

今は、魚をとるのは許されてますか?

一人20尾の許可制だけど20尾なんて...犬に食わせ、塩づけにし、日干しにして...一人20尾で
足りるわけないでしょ。魚は私たちにとって主食なのよ。私たちはサケが来たら、流氷がとけだし
たら、どうしても漁に行きたくなるものなの。

それを、許可をお願いに歩き回れだなんて... 主食のためにこじきをさせられてるんですよ。無許可
の漁は、50ルーブルの罰金だし... 網も没収されてしまうんです。5年とか3年毎に、サケは沢山
やって来るの。今年もそんな年ね。またよそ者が沢山来るわ。抗議しても無駄。車にウォッカを
積んで来て、それで酒飲みの監視員を買収するんだから。そうやってイクラも、新鮮な魚も消えて
行く。全く悲劇ね。酒飲みだけがお祭り騒ぎなんて。

フローシャ!今日は撮影させてもらえないの? どうして? 

私は女優よ、荒れてるけどさ。フローシャ・クリクさんはニブフの踊りを伝承する唯一の女性だと
聞いていた。彼女も撮影させてくれると約束していた。

だが、我が撮影班は運が悪かった。移動販売車が来て、オーデコロンを売りつけた。オーデコロン
はウォッカの代わりにされたのだ。恥ずかしい光景は撮らないでくれと、学者のご亭主がしつこく
頼んだが... カメラを止めないことにした。

地方当局がニブフを酒浸りにさせているその光景は... どうしても記録しておくべきだと考えたのだ。
きちんとしたフローシャさんも後で見て欲しい。

酒が原因で死んだ人はいますか? いるわ、もちろん? それも沢山ね。皆、飲んで、飲みまくって
死んで行くのよ。心臓も、あんなに飲んだら耐えられない。昔、自分の村では、病気もしなかったのに。

ステパンは、自分の事は語らずに、先祖の集落の跡へ我々を案内してくれた。ここが昔のニブフの
古い宿営地の跡だ。竪穴式の古い小屋。古老エケチの家だ。

これが日干し棚。魚を開いて干していた。下にまだ、骨が落ちてる。

見えるだろ。これは、ニブフの最後の墓場だ。撮った画像、誰にも見せてもらいたくないな。この墓場で
我々ニブフの歴史が終るなんて...

ソ連科学アカデミー附属極東科学センター海洋地質・地球物理研究所の調査報告では、1979年、
大陸からの移民がニブフを押しやり北サハリン人口の99.6%に達したこと、最後のニブフ語を母語
とするニブフが1992年にいなくなったこと、自分の言葉であるニブフ語を記憶する者も、1999年には
いなくなると予測している。



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