「沖縄久高島のイザイホー」イザイホー映像デジタル化プロジェクト
掲載開始:2021.04.22.
最終更新:2021.06.01.
東京文化財研究所、音声映像記録研究室に事務局を置く文化財映像研究会のイザイホー映像デジタル化プロジェクトでは全素材フィルムの
2K-Full(2048x1556ピクセル)デジタル化を目指しています。目下行われているクラウドファウンディングは、そのスタートを切るための
重要な行程です。
第2カメラ 草間道則 第1カメラ 谷口常也 第3カメラ 高山永一
画像をクリックするとデータ容量を軽くしていますが動画像が見られます。
撮影済みフィルムが約1000分、6㎜オープンリール19cm/secの音声テープもかなりあります。映像・音声素材は40数年を経ても、十分な質を
保持しています。大手現像所が、完成原版を保管しているフィルム保管専門の倉庫に置いてきたからです。しかし、それでも経年劣化はありました。
賢く作業工程を組み立てないと壮大な無駄が生じかねません。そこで2021年4月21日、ビデオラボ、東京光音の好意でテストスキャンを行いました。
東京光音の5Kスキャナーは、レーザーグラフィックス社のスキャンステーションです。従来型と異なり、この機種ではリアルタイムで画像を確認
しながら、開始点・終了点が決められません。4月上旬、同社のスティンベック4皿編集台にオリジナル・フィルムをかけて、箇所決定をしました。
東京シネマ新社が最後に16㎜フィルム作品を完成したのが、1986年です。今でも主要撮影機材は処分せず、何時でも使える状態にしてありますが、
遂にフィルムでの仕事に戻れませんでした。懐かしい気分で、久々のスティンベック操作となりました。
良い画質で、フィルムからビデオ信号を取りだすには、およそ40年間、FSS(フライング・スポット・スキャナー)テレシネ=ランク・シンテル社
の装置が事実上の世界標準でした。FSSが、1段階で、一気にインターレスのテレビ送出用の画像を作成するのに対し、2010年代半ばに登場したデジ
タルスキャナーでは、 第一段階では1:1でフィルムの1コマ、1コマに対応するスキャンデータを先ず静止画の連番ファイルとして作成します。次に、
第二段階で色補正とテレビ送出用の信号系へエンコードします。学術的なフィルムによる記録映像のデジタル保存には、より望ましいやり方となった
と言えるのですが、今回のテストでデジタルシネマ制作で行われる24p/sec編集を採用しようと考えています。色補正などは行うが、2-3プルダウンに
よるインターレース画像とはしないと言うことです。
ただ、それだけだとPC上では見られますが、家庭用のTVモニターでは見られませんから、DVDやBDを作成する段階では59.94iの画像データを作成
します。
撮影済み16㎜フィルムは、大きく分けると夜間撮影に使用した高感度リバーサルフィルムと、昼間撮影に使用したカラーネガの2種類です。その
双方からサンプルを選びました。
サンプル① 第一日夕刻 ユクネーガミアシビ(夕神遊び)における七つ橋わたり
主な祭りの場である御殿庭(ウドゥンミャー)には3台の同期録音、カメラを配置していました。というのも、もう一つの重要なノロ家における神女
たちの集合とイザイホーの始まりを告げる神謡(イザイホーのムトゥティルル)の朗唱を記録せねばならず、久高ノロ家前に第3カメラ、堀田泰寛カメ
ラマンを配置したからです。御殿庭では、東側の台座上に第2カメラ(草間道則)を、南側庭入口の西側(拝殿に向かって左側)台座上に第1カメラ(谷
口常也)を、西側の台座上に第4カメラ(高山永一)を配置し、その台座下に録音部が位置しました。
第2カメラ(草間道則カメラマン)1978年12月14日夕刻
オリジナルは、フジカラーリバーサルRT400 テレビニュース用の高感度カラー反転フィルムを使用しています。
カメラは、NAC社からレンタルした、フランス製のエクレールNPR、アンジェニューの10倍ズームレンズつきでした。
画像をクリックすると2048x1556ピクセル画像になります。
サンプル動画① 2K-Full動画 容量を減らしたAppleTV画像 学術的な各論編の候補フォーマットです。
サンプル動画② 1:1.44エッジクロップ画像 容量を減らしたAppleTV画像
サンプル動画③ フル16:9画面 岡田としては、充分な画質が維持できるので、一般向き2022年公開版をこうしては?と考えています。
この他、第1カメラ 谷口常也カメラマン、第4カメラ 高山永一カメラマンの別アングルからの画像もテストしています。
今回のテストで、高感度リバーサルフィルムから、非常に素晴らしい画像が取りだせると、確信しました。従来公開されてきた画像は、2021年版を
含め全て、オリジナル画像からインターネガを起こしていますが、ストレートなオリジナル画像だと、ここまで違うのか?という印象です。
3つの異なったアングルの画像が提示できるのも、良かったと思います。未だ充分なクオリティを保持しておりますが、40年以上の時間を経ての経年
劣化もあり、今回のデジタル化は、良いタイミングだと思います。
サンプル② 第四日午後 ウドゥンミャー(御殿庭)における外間ノロのティルル=神謡(玉城ミスゥルル)が終わりに近づいた。
第3カメラ (堀田泰寛カメラマン)1978年12月17日午後
オリジナルは、フジカラーネガAを使用しています。
カメラは、NAC社からレンタルした、フランス製のエクレールNPR、アンジェニューの10倍ズームレンズつきでした。
画像をクリックすると2048x1556ピクセル画像になります。
サンプル動画④ 2K-Full動画 容量を減らしたAppleTV画像 学術的な各論編の候補フォーマット。
サンプル動画⑤ 1:144エッジクロップ画像 容量を減らしたAppleTV画像
サンプル動画⑥ 16:9画面 岡田としては、一般向き2022年成果発表版をこうしては?と考えています。
カラーネガフィルム撮影の部分も良い成果が期待できますが、スキャン作業に入る前の準備作業が、問題だと感じました。1979年の
ネガ編集作業時に、フィルムを切断した個所を、粘着テープで仮止めしたのですが、このテープの糊が、フィルム面に固着し、それが前後
の巻かれた重なる部分にまでこびり付いています。これらを東京光音の超音波洗浄機で、どこまで除去できるか?が大きな課題となります。
経年劣化で、やや色むらが起きていました。これらを補正していくオペレーターの感性が問われる部分です。
従来の画像データとの比較
90年代前半に東京光音により16㎜ポジプリントからSDレベルのアナログベータカムSPへのFSSテレシネ画像がおこなわれており、これを
NPO法人科学映像館からウェブ公開しています。サンプル動画⑦
作成時期は判りませんが、NHK知財センター、アーカイブ部管理の16㎜プリント(現在は国立映画アーカイブに移管)から、ヨコシネDIAが
FSSテレシネした(と思われる)HD画像があります。この提供データをベースにクラウドファウンディングの返礼品となる2021年試行版107分を
制作しています。七つ橋渡り タマグシクミスルル
試行版を作成した理由は、1979年版のカット選択や、選択シーンの的確性を作者として再検証したかったこと、それを「物差し」にして将来の
デジタル化作業を進めようと思ったこと、さらに、それをベースにして速やかにクラウドファウンディングの返礼品と完成することです。
ただ、このテスト作業をしていて、24p作業で行くべきと考えるに至りました。そうなると、59.94iの画像データを物差しにすることは不適切
かも知れません。また追加した中間字幕は、研究の進んだ久高方言のカタカナ表記との摺合せも考慮する必要があり、正に試行錯誤の連続であり、
エキサイティングな毎日です。
デジタル化で何を目指しているのか
① 2022年の中間成果発表までに
クラウドファウンディング返礼品としてお配りする「沖縄久高島のイザイホー」HD版2021年試行版を2Kfullデジタル化で得られた画像に置き換
えたフル16:9版;DCP24pによる大会場公開版および、そのBD-R版あるいは、デジタルデータ視聴版の公開可能にします。
同じく「沖縄久高島のイラブー」の2Kfullデジタル化で得られた画像に置き換えたフル16:9版;DCP24pによる大会場公開版および、そのBD-R版
あるいは、デジタルデータ視聴版の公開を可能にします。
② 2026年の最終成果発表までに
各論編 a)準備期 b)第一日目午前「ウプティシジ香炉の継承」 c) 第一日目夕刻「ユクネーガミアシビ(夕神遊び)」 d) 第二日目午前
「ハシララリアシビ(洗い髪遊び)」 e) 第三日目午前「シューリキ(朱つけ)」 f) 第三日目「ハナサシアシビ(花刺し遊び) g) 「ハーガミ
アシビ(井泉神遊び)」 h) 第四日目午前方遥拝」 i) 第四日目午前「アサンマーイ(各戸巡り)」 j) 第四日目午後「外間拝殿でのグゥーキ
マーイ・タマグシクミスルル」 k) 第四日目午後「御殿庭でのグゥーキマーイ・タマグシクミスルル」 l) 終了後 m) フバワク(年末の聖域
清掃儀礼)
以上のうち、マルチカメラ収録を行った個所では、カメラ非駆動部分を黒み(BB)を吊って、カメラ別ロールも作成します。ティルル(神謡)には
極力、比嘉康雄氏による現代語訳字幕をつけ、現代研究者による学術的検証を行います。とりわけ、近年の久高島方言研究の成果との使用語彙の摺合
せが大切と認識しています。データベース化にあたっては、10年前に行われた久高島年中行事データベースの成果との統合が強く望まれます。
全デジタル画像を得た段階で上記予定は再検討し、変更も多々予想されます。直近2か月間にもテスト作業だけで多くの変更が行われました。
この試みへの、ご質問、ご意見を歓迎します。ご連絡は:k-okadaアットマークtokyocinema.netへどうぞ。
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