澁澤フィルム(1926−37年)の公開

還暦を迎えた渋沢敬三 撮影: 木村伊兵衛(1956) SHIBUSAWA Keizo 60 years old

神奈川大学日本常民文化研究所(常民研)と下中記念財団EC日本アーカイブズ(ECJA)は、東京シネマ新社の技術支援のもと、澁澤敬三氏を中心とするアチックミューゼアムのメンバーが、1926−37年に撮影した16mmフィルム(われわれは澁澤フィルムと呼んできた)のビデオコピーの維持管理と公開を概ね以下のように行って行くことになった。これらの映像は日本の映像人類学の初期の貴重な記録であり、様々な形での利用が期待されている。


Publication of SHIBUSAWA Films

Dr. SHIBUSAWA Keizo, was very active to shoot in 16mm reversal films inbetween 1926-37 while he went research trip or invited informants to his residense in Tokyo. ECJA with suppurt of TokyoCinema carefully transfered those important material of the early visual anthropology.


 


ECJAは1970年代初めの開設当初より、現在の澁澤史料館−東京都北区飛鳥山の竜門社・澁澤青淵記念財団に保管されていた澁澤フィルムのより良い形での保存・公開を願って、一部16mm原版の補修、複製コピーの作成を西独国立科学映画研究所との共同作業で行い、また1980年代初めには放送文化基金の助成で大部分の映像を1インチビデオテープへテレシネ作業した。常民研が神奈川大学に移管され、16mm原版は常民研に移されたが、1インチテープは作成後十数年を経て劣化が懸念されていた。

1995年末にデジタルベーターカムビデオカセットへの再コピーと、今後の公開に向けて映像の再編成が行われた。現在のマスターコピーは、1980年代初め当時のビデオ画像を極力よい状況で保存しようとしたもので、16mm原版の画像情報を完全に引き出しえていない。再コピーとともに行った再点検では、テレシネ技術の向上で50%ほど鮮明度を改善しうることが確かめられた。したがって現在のマスターコピーの寿命が限界に来る2005年までにフィルム原版に立ち戻っての再転換が望ましい。多分そのころにはより高品位なテレビ・ビデオシステムも普及していることであろう。 

常民研はECJAに澁澤フィルムのビデオによる学術研究・教育目的の公開活動を委託する。この公開にはECJAの施設内での外部者への閲覧、貸出、映像の複製・頒布、教育放送や博物館の展示などへの映像の部分使用が含まれる。この公開活動は、ECJAが定める他の映像の利用規定に準じて有償で行われる。また利用者が研究成果を公表する場合、出典を明示し、出典の明示された論文の抜き刷りや映像作品など、成果物を1部、常民研に提出するよう義務づけられる。 

既にこれらの映像は、ごく一部であるが土浦市立博物館での記録映画上映会で紹介されたり、現在、台湾でパイワン族を同じ集落で研究されている東京大学末成道男教授が参照されたりという利用が始まっている。また、フィルムの中には作品化が進まず、映像からは撮影年代が判らないものも少なくなかったが、映像作家原田健一氏の旅譜との突合せによって、ビデオ化されている全作品の撮影時期が確定された。旅譜に記載されている旅程にしたがって全ての映像は展開している。まだ一部の映像でビデオ化されていないもの、整理リストに記載されながら所在が不明のものもいくつかあるので、それらの見つけだしや、ビデオ化も課題である。またアチックミューゼアムの同人中で最も映像に親しまれ、少なからぬ 9.5mm作品のある宮本馨太郎氏の映像との照合もまた、興味深くかつ重要な課題である。今回掲載するリストの映像には、明らかに大部分が澁澤自身で撮ったと思われるもの、明らかに澁澤の参加の無いもの、澁澤も採訪と呼ばれた調査旅行に参加したものの、撮影の多くを宮本が担当したのはないかと思われるものなどがある。 

筆者自身は何時の日か、この日本におけるユニークな動く映像資料が、文字情報や、澁澤史料館に保存されている膨大な写真資料文字情報とともに同一のメディアに取り込まれたマルチメディア化されて、誰にでも容易に利用されるようになることを心より念願している。 

最後に、このような古い映像資料を著作物として扱うべきか、文化財として扱うべきかという興味深い問題提起が常民研所長の橘川俊忠教授からあったことを紹介したい。今回の映像は公開後50年は経過しているが、まだ作者の死後50年は経ていないので、著作権の保護を受けるが、著作権の切れる映像は、映画誕生百年を経てますます多くなっている。ところが、著作権紛争が裁判の場まで持ち出されることがこの種の映像の場合、非常に少ないので、判例もきわめて少ない。著作権の切れた映像について、所有者が不要な恐れを抱いた場合、外部者に利用させることに消極的になってしまう恐れもある。そのような博物館関係者にとっては、はなはだ困る事態の回避の巧い方策はないものだろうか? 

著作権の切れたような映像、あるいは十分に古い映像については、著作権をうんぬんする以前に、それらの映像を文化財として捉え、その利用に関しては所有者との間で、誠実な話し合いが行われることで問題を解決して行けば大部分の問題はスムーズに進行する。川崎市市民ミュージアム学芸員、濱崎好治氏は、長期にわたって映像を保管しているアーカイブズなどの保管者としての権利も尊重されるべきではないか、と指摘されている。また資料性の高い映像を一つの文化財として捉えることは、博物館映像学研究所の孝寿聡氏が新しい作品について主張している「映像記録文化財」といった概念とも矛盾しない。
 
澁澤フィルムの閲覧・貸出・購入を希望される方々は、ECJA(電話:03-5261-5688) e-mail: t-hirokawa@tkg.att.ne.jpあるいは、東京シネマ新社(電話:03-3811-4577) e-mail: info@TokyoCinema.netにご照会いただきたい。




ビデオ化が完了し、公開可能な映像のリスト
Video List which available to view at ECJA/SMF 
缶及び画面表記無いものは、旅譜から映像作家・原田健一氏が推定した。           
    題      名      元番号    長さ  撮影時期      Title or Content   
Org. Roll Length Shot Period
台湾 1&2 01・02 24min. 1926.4.18.-5.2.  Taiwan 1&2
花祭り綱町邸 04 18min. 1930.4.13. Hana-matsuri at residence
飛島 05 18min. 1931.6. Tobishima Island
中馬 06 18min. 1931.9. Chuma caravan
三河地方旅行 1&2 07・08 34min. 1933.1.1.-6. Trip to Mikawa District
越後三面行 09 18min. 1933.6. Trip to Echigo-Miomote
ワラ靴製作 31 12min. 1933.8.26. Straw Boots making
田沢仙岩峠  10 15min. 1933.9. Tazawa-Sengan ridge
十島 B1-B3 14・15・16 52min. 1934.5.12.-22. Toshima Islands
隠岐 18 12min. 1934.5.24.-28. Oki Islands
男鹿オシラアソビ他 19 20min. 1934.9.-10. Oga District Oshira-asobi
イタヤ細工 32 18min. 1934.11.9. Maple ware making
花祭り 17 13min. 1935.1.1.-4. Hana-matsuri
谷浜 21 09min. 1935.2.14.-15. Tanihama
谷浜桑取谷 22 19min. 1935.2.14.-15. Tanihama & Kuwatori Valley
竹沢村牛突 23 12min. 1935.4.27.-29. Bull fight in Takezawa Village
満州1-3 24・25・26 38min. 1935.4.29.-5.27. Manjuria 1, 2 and 3
深田植・直江津片田家 27 13min. 1936.6.13.-14. Deep rice pad/Katada home
PAIWAN 1-3 34・35・36 47min. 1937.3.-4. Paiwan tribe
塩飽 1&2 28・29 28min. 1937.5.14.-22. Shiaku Islands
志摩崎島 30 09min. 1937.5.22.-25. Sakishima in Sima District

 桑取谷岩片家を訪れた渋沢敬三(1935)


貸出料金:VHS 1タイトルあたり20分まで ¥2000 30分まで ¥3000 60分まで ¥6000
頒布料金:VHS ¥1500/分 例えば 28min.の場合  1500X28=\42,000
いずれも外税 送料・返却送料実費 利用者負担

この料金設定は、事前の予告無く変更されることがあります。

申込先: e-mail: info@TokyoCinema.net


1998.09.20. 掲載開始   2002.06.11. 最終更新


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